都市部の保育園不足解消のため、現在の認可基準では近くに公園などの代替場所があれば、必ずしも自前の園庭を持つ義務はありません。そのため、日々の活動を「近隣の公園」や「散歩」で充実させている園も多くあります。 「広い公園があるなら、園庭は必要ないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、私たちASOBIOは、例え狭い敷地であっても、保育園の中に「自然豊かな園庭」を作ることには、公園遊びだけでは得られない決定的な意義があると考えています。 今回は、なぜ自園に自然が必要なのか、そのメリット・デメリット・狭い敷地内に自然豊かな園庭を作った事例を徹底解説します。

①「利用する場所」か「自分たちで作る場所」か
公共の公園は、みんなの場所であるため、「穴を掘って水を流す」「植物を植える」「虫の家を作る」といった、環境に手を加える遊びには制限があります。 一方で、自園の園庭は、子どもや先生が主体となって「環境を作り変える(可塑性)」ことができる場所です。泥だんごを作ったり、ビオトープの手入れをしたりと、自分たちの手で環境に関わる体験は、自園の園庭だからこそ実現できます。


② 教育の場としての「機能」
日本の幼児教育の父、倉橋惣三は、学校の運動場が「体育や休憩」の場であるのに対し、幼稚園(保育園)の園庭は「すべての教育を行える場」であるべきと述べています。 公園は主に「身体を動かす(運動)」場として機能しがちですが、自園の園庭は、運動だけでなく、自然観察、創作活動、静かに過ごす時間など、多様な学びが生まれる「教育設備」としての役割を果たします。

③ 「継続性」と「共主体」
公園は「行って、帰ってくる」場所ですが、園庭は生活の場です。朝見つけた幼虫が夕方にどうなっているか観察したり、自分たちで植えた種が芽吹くのを見守ったりと、「命のつながり」を日常的に感じることができます。 子どもだけでなく、先生や保護者も一緒に環境作りに参加する「共主体(Co-agency)」の保育は、自分たちの園庭があってこそ深まります。
① 探究心と「センス・オブ・ワンダー」の育成
ASOBIOが提案するのは、地域の生き物が訪れる自然な空間です。 遊具が決まっている公園とは異なり、園庭の片隅に小さな草むらや水辺があるだけで、チョウやトンボがやってきます。身近な「いのち」に触れ、心が動かされる「センス・オブ・ワンダー」の体験は、科学する心や探究心の土台となります。

② 創造性を育む「可塑性(かそせい)」のある遊び
土、水、草花といった自然素材は、使い方が決まっていません。 「どうやったら水が流れるかな?」「泥を固めるにはどうすればいい?」 固定遊具が中心の公園とは違い、子ども自身が素材を変形させ、試行錯誤しながら遊びを創り出すプロセスが、創造性や思考力を育みます。


③ 先生も保護者もワクワクする(保育の質の向上)
園庭作りは、大人にとっても学びの宝庫です。 「雑草エリアを作ったらバッタが来た!」「カブトムシの家を作ろう」など、環境作りを通じて先生や保護者が面白がり、ワクワクする姿は子どもたちに伝播します。先生が楽しんでドキュメンテーション(記録)をとるようになるなど、園全体の保育の質が向上した事例も多くあります。

④ ESD(持続可能な開発のための教育)の実践
自分たちの庭で小さな命を守り、育てる経験は、SDGsの目標でもある「生物多様性」や「環境問題」を自分ごととして捉える第一歩(ESD)になります。これは、管理された公園を利用するだけでは得難い学びです。
自然を取り入れることへの不安を「学び」に変える視点が重要です。
デメリット①:管理の手間(水やり、雑草や虫)
「植物の世話が大変」「虫が苦手」という声もあります。
【解決策:共に育てる】 自然に完成はありません。大人が完璧に管理するのではなく、子どもと一緒に「どうすれば花が育つか」を考えること自体が保育になります。ASOBIOでは専門家がチームで先生やこどもの意見を取り入れながら園庭づくりを進めていきます。植物や自然に関する知識がなくても安心して始められます。
デメリット②:ケガのリスク
自然の地形や木々は、平らな広場に比べてつまづくなどの可能性があります。また、虫にさされたり、ささくれが刺さったりする事もあるかもしれません。
【解決策:リスクとハザードの区別】 ASOBIOでは、除去すべき「ハザード(隠れた危険)」と、あえて残すべき「リスク(挑戦する危険)」を区別します。木登りや段差などのリスクに挑戦し、乗り越える経験は、子どもの危険回避能力や達成感を育むために不可欠です。ASOBIOでは園庭研修を通して、先生方とリスクとハザードを考えながら園庭づくりを進めていきます。
デメリット③:保護者の理解
怪我をしたり、服が汚れたり、保護者が心配するケースも考えられます。
【解決策:育ちのプロセスを可視化、共有する】 ASOBIOでは「汚れや、怪我だけを持ち帰えらない」と先生方に伝えています。園庭での経験(興味感心や育ち)をドキュメンテーションにまとめて、先生間だけでなく、保護者にも共有する事が大切です。保育園は、こどもを預かる施設ではなく、こどもが育つ施設です。園庭での育ちを積極的に共有すれば、不安から共感に変わるはずです。
保育園の園庭と聞いて、どのような場所を想像しますか? 平らな地面に滑り台とブランコが並ぶ風景でしょうか。 ASOBIOでは、歴史的な幼児教育の知見と現代の環境教育(ESD)の視点を掛け合わせた、5つの条件を「理想の園庭」として定義しています。
① 「運動場」と「園庭」は違う(倉橋惣三の視点)

日本の幼児教育の父と呼ばれる倉橋惣三は、今から100年以上前に「学校の運動場と幼稚園(保育園)の遊園を混同してはならない」と警鐘を鳴らしました。
• 学校の運動場: 体育や休憩など、特定の目的のために使われる平らな場所(グラウンド)。
• 理想の園庭: 全部の教育を行うことができる場所であり、人工的ではなく自然な場所。
倉橋は理想の条件として、「できることならば様々な地形の変化を含むものであるとよい。殊に斜面は最も必要」と述べています。平らである必要はありません。築山や斜面があることで、子どもは駆け上がり、転がり、身体の使い方を自然と習得します。
② 「可塑性(かそせい)」があること
固定された遊具は遊び方が決まっていますが、土、水、植物といった自然素材には形がありません。 子どもが「穴を掘って川を作る」「泥で団子を作る」「草花で色水を作る」といったように、自分の手で環境に働きかけ、変化させることができる性質を「可塑性(かそせい)」と呼びます。 子ども自身のアイデアで遊びを創造できる余地(=可塑性)がどれだけ残されているかが、創造性を育む鍵となります。
③ 地域とつながる「ビオトープ」であること
理想の園庭は、どこか遠くの自然を真似たものではなく、その地域の生態系とつながっている場所です。 地域本来の在来種の植物を植えることで、その土地に住むチョウや鳥たちがやってきます。園庭が地域の生態系ネットワークの一部(ビオトープ)となることで、子どもたちは「自分たちは自然の一部である」という感覚を肌で感じることができます。
④ リスクとハザードが区別されていること
「安全」は最優先ですが、リスクをすべて排除しては子どもの育つ力が削がれてしまいます。ASOBIOでは安全管理において明確な線引きを行っています。

• ハザード(除去すべき危険): 釘の飛び出しや腐った木など、子どもが予測・回避できない隠れた危険。
• リスク(残すべき危険): 木登りや段差など、子どもが「登ってみたい」と自ら挑戦し、失敗も含めて学ぶことができる危険。 子どもの発達段階に合わせて適切なリスクを残すことが、本当の意味での「生きる力(危険回避能力)」を育てます。
⑤ 「未完成」であり続けること
完成した時が一番きれいな庭ではなく、10年後、50年後の姿をイメージしながら変化し続ける庭が理想です。 植物が育ち、木陰ができ、やってくる虫が変わる。その変化に合わせて、子どもたちや先生が手を加え続ける。あえて「未完成」であることで、そこには常に発見と探究の種が生まれ続けます。
狭い園庭の中にASOBIOを作った事例を紹介します。
森之宮保育園(大阪府)

園が掲げるVISIONの中に、何かに夢中になっている、「もしかしたら…」と友達と顔を突き合わせて真剣に話し込んでいる。自分たちで考え自らがやりたいと思う事をとことん楽しんでいる。一人ひとりの「楽しい」はみな違う。子どもがやりたいことにとことん付き合って、子ども達の発見を喜び合う。一人ひとりの「楽しい」を保障すること。子ども・保護者・職員・地域の方々にとって居心地の良い空間・環境を提供する事。があります。
居心地の良い空間それは決して室内だけではありません。戸外での居心地(環境)を考える中で、ASOBIOと出会い、職員も交えての研修で思いを共有しました。沢山の出逢いと繋がりの中で、植栽の事を学び、鳥や虫、メダカなど生き物が身近な存在となりました。
計画が進む中で、子ども達の日々の育ちに「彩り」が加わる事を確信しました。
これから、一年一年樹々は成長し、園庭は変化し続けるでしょう。移り行く時の流れを楽しめる日々を楽しみにしています。





近くに公園があるからといって、園庭が必要ないわけではありません。 公園は「身体を動かす・社会と関わる」場所として活用しつつ、自園の園庭は「命に触れ、環境を作り、育てていく」場所として機能させる。この2つを組み合わせることで、子どもたちの経験はより豊かになります。
ASOBIOは、プランター1つ、園庭の片隅からでも始められます。「こどもまんなか」だけでなく「いのちまんなか」の保育環境を、私たちと一緒に作りませんか?
