コラム

保育園・幼稚園の自然豊かな園庭づくり 〜子どもと先生がワクワクする環境へ〜

「子どもたちが夢中になって遊べる園庭を作りたい」「園庭を少しでも自然豊かにしたいけれど、何から始めればいいかわからない」。 そんな想いや悩みをお持ちの保育園・幼稚園・こども園の皆様へ。 近年、画一的な「運動場」のような園庭から、草花や生き物であふれる自然豊かな園庭へと環境を見直す動きが全国で広がっています。

園庭の中に誕生した自然と触れ合うスペース
園庭の一角に作ったビオトープ

この記事では、これからの時代に求められる「自然豊かな園庭の必要性」から、子どもはもちろん、先生方自身もワクワクできる「園庭づくりのポイント」まで、幼児教育の歴史や最新の環境教育の視点を交えながら一緒に紐解いていきましょう。

1. なぜ今、園庭に自然が求められているのでしょうか

私たちが自然豊かな園庭づくりをおすすめするのには、幼児教育の歴史的な背景と、これからの未来を生きる子どもたちへの大切な願いが込められています。

① 幼児教育の原点に見る「園庭」の価値

幼稚園(キンダーガーデン)という言葉は、ドイツの教育学者フレーベルが作ったものであり、「ガーデン(庭)」という言葉が示す通り、彼は自然の中での教育の重要性を唱えました。 日本の幼児教育の父と呼ばれる倉橋惣三もこの思想を受け継ぎ、「遊園(園庭)は幼稚園の設備の中で最も充分なる条件を完備しうる場、最も良き保育の場は『広き遊園』である」と述べています。 倉橋は、学校の運動場が「休憩や体育」のための場所であるのに対し、幼稚園の園庭は「全部の教育を行うことのできる場」であると指摘しました。平坦なグラウンドではなく、地形の変化や斜面を含み、人工的ではない自然な環境であることが理想だと説いたのです。戦後、園庭が学校の校庭のように「運動場化」していく実態がありましたが、今、改めてこの豊かな自然環境を取り戻す動きが活発になっています。

倉橋惣三が述べた最高の教育の場としての園庭とその条件

1914年、遊園(園庭)は幼稚園の設備の中で最も充分なる条件を完備しうる場、最も良き保育の場は「広き遊園」であると「婦人と子ども」14巻7号の論文中で倉橋惣三は述べています。

幼児教育の主要なる設備たる性能を存分に発揮し得ないのは、一つには学校教育における運動場の目的と幼稚園の目的との混同であり、学校教育の運動場は休憩と体育という特定教科の場所であるのに対し、幼稚園では全部の教育を行うことのできる場だとしています。
また、もう一つの混同は、いわゆる鑑賞する庭園との混同だとしています。

そして理想として3点の条件を挙げています。

イ)なるべく広いがよいことは言うまでもないが、できることならば様々な地形の変化を含むものであるとよい。殊に斜面は最も必要。
ロ)全体の調子がなるべく自然であり、人工的に作ったものと言う感じを少なくしたい。
ハ)清楚なる趣味を具えるものでありたい。幼児本位のものでなければならない。

倉橋惣三の紹介

② 「子ども主体」から、みんながワクワクする「共主体(Co-agency)」へ

現代の保育では「子ども主体」が大きなテーマとなっています。玉川大学教授の大豆生田啓友先生によれば、この「主体(agency)」の原点は、子どもの積極性、能動性ではなく、一人ひとりの人権や思いが尊重されることにあります。 さらに一歩進んで、私たちASOBIOが大切にしているのが「共主体(co-agency)」という考え方です。子どもだけでなく、保育者や保護者、地域の大人たちが協働的に関わることに加え、「モノや自然(いのち)」も主体として捉える視点です。 園庭の片隅に小さな草むらがあるだけで、チョウやバッタがやってきます。季節の移り変わりや命の多様性に触れて心が動かされる「センス・オブ・ワンダー」の体験が、子どもの知的な興味関心や探究心を豊かにします。園内に生き物が増えることで、「伝えたい、知りたい、大切にしたい」といった知的好奇心や愛着心が溢れ出し、子どもだけでなく、先生もワクワクする保育環境が生まれるのです。

③ 「環境のための教育(ESD)」と社会への貢献(グリーンインフラの潮流)

これからの幼児教育においては、子どもが環境と関わる「環境による教育」だけでなく、「環境のための教育」の視点も不可欠です。気候変動や生物多様性の喪失が課題となる中、「持続可能な開発のための教育(ESD)」が推進されています。身近な自然に触れ、小さな命を大切にする経験は、持続可能な社会の作り手を育むことにつながります。

【ESDの実践例:都市化の課題を解決する「雨庭」】 このESDの具体的な潮流として今注目されているのが、園庭の「雨庭(レインガーデン)」です。

東京ゆりかご幼稚園に完成した雨庭
東京ゆりかご幼稚園に完成した雨庭(雨樋の途中からパイプで雨水が放水されている様子)

気候変動による集中豪雨が頻発する中、アスファルトに覆われた都市部では降った雨が地中に浸み込まず、下水道に一気に流れ込むことで浸水被害が増大しています。 この課題に対し、屋根に降った雨水を下水道へ直接流さず、園庭の浅い窪地に集めてゆっくりと地中に浸透させる仕組みが「雨庭」です。

雨庭とは

熊本県の「くまもと雨庭パートナーシップ」や東京都の「雨水しみこみプロジェクト」など、地域社会全体で推進されています。 雨庭は地域の水害リスクを軽減する社会基盤(流域治水)として貢献するだけでなく、子どもたちが水の流れを変えて遊んだり、雨庭に植えられた植物の成長を観察したりすることで、水や生き物の循環について学ぶ「生きた環境教育(ESD)の場」となるのです。

④ 要領・指針における自然環境の重要性

国が定める指針においても、自然環境の重要性は明記されています。例えば「幼稚園教育要領」や「保育所保育指針」では、身近な自然に親しみ、生命の尊さや自然の不思議さに気付くことの大切さが語られています。また、「幼稚園施設整備指針」では、安全性を確保しつつ「現存する森、樹木、池等や自然の傾斜、段差等を有効に活用するように」と推奨されています。

2. 子どもと先生がワクワクする!園庭づくりのポイント5選

それでは、具体的にどのような視点で園庭づくりを進めればよいのでしょうか。理想の園庭を実現するための5つのポイントをご紹介します。

① 先生たちと一緒に創る(園長や業者だけで決めない)

園庭は屋内と同じく、毎日の保育を支える大切な教育環境です。だからこそ、園長先生や外部の施工業者だけでデザインを決めるのではなく、子どもたちの遊びを一番近くで見守っている「現場の先生たち」が設計やデザインに参加することが極めて重要です。 先生が主体的に関わることで、「こんな遊びをさせたい」「あんな植物を植えたい」というアイデアが生まれ、園庭はもっと面白くなります。先生自身が園庭づくりを楽しむことで、職員全体がチームとなり、自由な意見が行き交う風通しの良いカルチャーが生まれます。

園庭研修の様子

ASOBIOでは、平面図だけでは伝わりにくい完成イメージをVR(仮想現実)を用いて可視化し、先生方や保護者と具体的な空間イメージを共有しながら、全員がワクワクできる園庭づくりを進めています。

② 「可塑性(かそせい)」のある環境を目指す

グラウンドや固定遊具は比較的遊び方が決まっていますが、土、水、木、草花といった自然素材には決まった形がありません。子ども自身が「穴を掘って水を流す」「泥団子を作る」といったように、自分の手で環境に働きかけて遊びを創造できる余地(可塑性)を残すことが大切です。使い方に正解がない環境では、観察・試行錯誤・対話を伴う協働的な活動が自然と生まれ、子どもたちの豊かな探究心が育まれます。

③ リスクとハザードを区別し、園内で対話する(園内研修)

「安全第一」はもちろんですが、すべての危険を排除して平坦な空間にしてしまっては、子どもの危険回避能力や挑戦意欲が育ちません。ここで大切になるのが、「リスク」と「ハザード」の違いです。

園庭のリスクとハザード
  • ハザード(隠れた危険): 遊具から飛び出した釘や落下しそうな木の枝など、子どもが予期できず自ら挑戦できない危険。これらは取り除くことが必要です。
  • リスク(挑戦する危険): 段差や木登りなど、子どもが「やってみたい!」と自ら挑戦し、乗り越えることで達成感を味わえる危険。発達段階に合わせて、あえて残すことが重要です。

例えば高い場所への挑戦も、ただ遊具を撤去するのではなく、落下地点を柔らかい砂場にする、あるいは能力に見合った子どもだけが到達できるような構造にするなど、安全に挑戦できる環境を整えます。また、ビオトープなどの水場を設ける際、「柵を設けるべきか」を園内研修で議論すること自体が、自園の保育理念を再確認する貴重な機会となり、結果として保育の質の向上につながるのです。

④ 大人も心地よい「ランドスケープ(景観)」と地域性の導入

今まで園は「こどもが通う施設」でしたが、これからは「地域の人々が集う施設」になる必要があります。そのためには、単なる遊び場ではなく、大人が見ても美しい「ランドスケープ(景観)」としてのデザインが求められます。 人工物と自然が調和し、視覚的にも心地よい空間を目指します。雑木の庭のような蛇行したラインや、植栽で囲まれた「懐(ふところ)」のある空間は、子どもに安心感を与えて遊びへの集中力を高めると同時に、大人にも深い癒やしを提供します。

りんでん保育園の自然豊かな園庭
福岡県のりんでん保育園の園庭。地域の景観に寄与している事がわかる。
ドイツの幼稚園のエントランス
ドイツの幼稚園のエントランス。一見園とは思えない?
東京都立川市「GREEN SPRINGS」の中にあるビオトープ

2020年に東京都立川市に完成した複合商業施設「GREEN SPRINGS」のように、都市の中にいながら自然に包まれる心地よい時間を園庭でも実現できるのです。 また、その土地の気候や土壌に合った在来種の植物(地域性)を選ぶことで、地域の生態系とつながり、チョウや鳥が自然と訪れる「ビオトープ」となります。

⑤ 「未完成の完成」を楽しむ

従来のグラウンドと遊具、運動教具が配置された園庭は、遊具が劣化したり、雑草が生えたり、完成後に劣化が始まり、定期的に性能を回復するためのメンテナンスが必要でした。一方で自然豊かな園庭は、工事が終わったその日が「完成」ではありません。自然に完成がないように、植物が育ち、季節が巡る中で、子どもたちや先生自身が手を加えながら変化し続ける環境であることが理想です。 10年後、50年後の姿を想像しながら、あえてアイデアをすべて詰め込まずに「将来の発展に備える余白」を残すこと。この「未完成の完成」を楽しむ姿勢が、園庭に無限のワクワクをもたらしてくれます。

グラウンド型の園庭と自然豊かな園庭(ASOBIO)の違い

3. 園庭づくりの事例紹介

実際に自然豊かな園庭を取り入れ、子どもたちの遊びや保育が豊かに変化した事例をご紹介します。

事例① 大阪府 森之宮保育園 「夢中になれる空間~心と心がつながる場所~」

園のVISIONには、子どもが夢中になり「もしかしたら…」と友達と語り合い、自分らしい「楽しい」をとことん味わえる環境づくりがあります。戸外の居心地を考える中でASOBIOと出会い、研修を通して思いを共有しました。植栽や生き物との出会いが日々の育ちに彩りを添え、樹々の成長とともに変化し続ける園庭を楽しみにしています。

事例② 福井県 めぐみこども園 「子ども・保育者・保護者 地域の人たち みんなわくわく 『めぐらす』

子ども・保育者・保護者 地域の人たち みんなわくわく 「めぐらす」
室内の充実にあわせて「もっと遊びの幅を!」と始まった園庭づくりは、子どもと保育者の声を重ねるわくわくプロジェクト。サークルタイムで子どもの意見を反映し、自然物や虫を調べる姿、想像を超える遊び方が広がりました。園庭名「めぐらす」も地域と共に決め、子どもたちの手で遊びを巡らせ続ける憩いの場を目指しています。

事例③ 北海道 別海くるみ幼稚園 「変化し続ける完成しない園庭~好奇心や探究心を育む~

変化し続ける完成しない園庭~好奇心や探究心を育む~
子どもの主体性を重視する保育への転換に伴い、園庭の在り方も大きく見直してきました。従来は「平らでなければ運動会ができない」といった葛藤もありましたが、子どもの声や遊びから保育環境を変えていく意識が広がり、雑木林のようなでこぼこの園庭へ改修しました。固定遊具は置かず、草木や虫、泥場や水場など自然に囲まれた環境の中で、命の大切さを知り、体を動かし、試行錯誤を重ねられる「完成しない園庭」を目指しています。

4. まとめ

自然豊かな園庭づくりは、単に「外遊びの場所をきれいにする」ことではありません。 それは、子どもの主体性を尊重する「こどもまんなか」の保育を実践しつつ、同時に自然や環境の主体性である「いのちまんなか」に目を向けるための、とてもあたたかく、意義深い取り組みです。

園庭にプランターひとつ、あるいはちょっとした雑草園があるだけで、子ども・保育者・保護者の主体性や協同性が生まれ、子どもの好奇心や探究心、科学する心が育まれます。園内に生き物が増えることで、先生自身がワクワクしながら子どもの成長を見守り、語り合えるようになるはずです。

また、園庭づくりは地球環境の保全にも直結します。ASOBIOは環境省が主催する「30by30アライアンス」に参加しており、園庭を地域の生態系の一部としてデザインすることは、生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)国際的な目標への貢献にもなります。 さらに、雨庭(グリーンインフラ)を導入することは、子どもたちの探究的な学びの場が、そのまま地域の水害リスクを軽減する社会基盤として機能するという、大きな可能性を秘めています。

未来の持続可能な社会を作る子どもたちのために。地域とつながり、命が集う、世界に一つだけの「ワクワクする園庭」を、先生方や地域社会の皆様と共に創り上げていきませんか。

自然豊かな園庭づくりのパンフレットの案内