ASOBIO(アソビオ)は、「あそび」と「ビオトープ」を組み合わせた言葉です。
私たちは、保育園や幼稚園、こども園の園庭に、草花や樹木、水、土、虫や鳥など、さまざまな生命と出会える環境をつくっています。そこで大切にしているのは、自然を「見るもの」として園庭の片隅に置くことではありません。子どもが草を摘んだり、虫を探したり、木の実を拾ったり、泥だらけになったりする。先生も一緒になって「これ、何だろう?」と考える。保護者や地域の人も園庭の植物や生き物に関心を持つ。そんなふうに、自然を中心に人と人との関係まで広がっていく場所をつくりたいと考えています。ASOBIOでは、自然を遠くの山や海にあるものではなく、「私たちのすぐそばにあり、私たちとつながっているもの」と考えています。

一方、ASOBIOの園庭づくりをしていると、ときどきこんな意見をいただきます。
「人間がつくったものは、本物の自然ではないのでは?」
「外来種が植えられているなら、ビオトープとはいえないのでは?」
では、そもそも「本物の自然」とは何でしょうか。
私たちは「自然」という言葉を当たり前のように使っています。しかし、考えてみると、とても曖昧な言葉でもあります。人の手が一切入っていない山や森だけを「自然」とするならば、私たちの身近にある里山、田畑、公園、鎮守の森などは自然ではないのでしょうか。日本では昔から、人が自然に関わり、利用し、手入れをしながら、その土地ならではの環境をつくってきました。現在、環境省が進める30by30の取り組みにおいても、国立公園などだけでなく、里地里山、企業林、社寺林など、人が関わりながら生物多様性を守ってきた土地が重要な対象とされています。また「自然共生サイト」では、「身近な自然」も対象として位置づけられています。ASOBIOが考える自然も、この延長線上にあります。
大切なのは、「人が手を加えたか、加えていないか」という二者択一ではありません。人と自然がどのような関係をつくっているのか。そこに目を向けることが大切だと考えています。
「ビオトープ」と聞くと、園庭につくられた池を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、本来のビオトープは池だけを意味するものではありません。


ビオトープとは、その地域にある草地、樹林、水辺など、「地域の自然の生物が自立してくらしていける場」と説明されています。つまり、園庭の片隅に野草が育ち、そこにバッタやチョウがやって来る場所があれば、そこも立派なビオトープになり得ます。

ドイツや日本で自然保全を目的としてつくられるビオトープでは、生き物の生息環境を守るため、人がむやみに立ち入らないことが大切な場合もあります。しかし、園庭にはもう一つ、大切な役割があります。園庭は子どもが育つための教育・保育環境です。そのためASOBIOでは、生き物を守ることだけを目的にするのではなく、子どもが生き物と出会い、触れ、驚き、考えることをとても大切にしています。草むらに入って虫を探す。葉っぱをちぎって匂いを嗅ぐ。落ち葉を集める。ダンゴムシを手に乗せる。時には、子どもが触れることで植物が折れてしまうこともあるでしょう。しかし、その体験から「生き物って何だろう」「命って何だろう」と考え始めることがあります。自然を「触ってはいけないもの」として遠ざけるのではなく、身近な存在として関わる。それがASOBIOの園庭におけるビオトープの考え方です。
園庭の自然を考えるうえで避けて通れないのが、外来種の問題です。ASOBIOでは、地域の生態系を守るという観点から、在来種と外来種を区別して考えることはとても大切だと考えています。しかし同時に、「外来種だから悪い生き物」と子どもたちに伝えたいわけではありません。
例えば、園庭や公園、河川敷などでよく見かけるシロツメクサ(クローバー)も、もともと日本に自生していた植物ではなく、海外から入ってきた外来種です。


シロツメクサで花冠をつくったり、四つ葉のクローバーを探したりした経験がある方も多いのではないでしょうか。子どもたちにとっても、花を摘んだり、虫を探したりできる、とても身近な植物です。
このように、ひとことで「外来種」といっても、その性質や生態系への影響はさまざまです。外来種だからといって、すべてを一律に排除すればよいわけではありません。一方で、地域の生態系に大きな影響を与える可能性のある外来種については、適切な管理が必要です。
大切なのは、「外来種か在来種か」を知り、その生き物の特徴や地域の生態系への影響を理解したうえで、適切に付き合っていくことだとASOBIOは考えています。
例えば、園でも比較的身近なアメリカザリガニやアカミミガメは、2023年6月から「特定外来生物(条件付特定外来生物)」に指定されています。飼育そのものが一律に禁止されているわけではありませんが、野外へ放すことは禁止されています。また、教育施設等が業として飼育する場合には、逃げ出さないようにするための飼養等基準を守る必要があります。


「捕まえたから、かわいそうなので池に放してあげよう」
その優しさが、別の生き物の暮らしを脅かすこともあります。
しかし、アメリカザリガニもアカミミガメも、自ら望んで日本にやって来たわけではありません。シロツメクサも含め、外来種も一つの生命です。だからこそ、「外来種=悪者」と考えるのではなく、なぜここにいるのか、在来種と何が違うのか、私たちはどう付き合えばよいのかを子どもたちと一緒に考える。
園庭は、そんな自然との関わり方を学ぶ、とても良い環境教育の場にもなるのです。
ASOBIOで植物を植える際には、その地域の植生を意識し、できるだけ地域に合った在来種を取り入れることを大切にしています。地域の植物が育てば、その植物を食草とする昆虫がやって来て、それを餌とする鳥が訪れる可能性もあります。地域ならではの生態系を園庭の中につくっていくうえで、在来種を意識することには大きな意味があります。
一方で、「在来種だけで構成された純粋な自然」を園庭につくることを目的にはしていません。
そもそも園庭に植える在来種の樹木や植物も、多くの場合、山から採取してくるわけではなく、苗木として生産されたものを購入して植えています。自然と人間の営みを完全に切り離すことはできないのです。

トキの野生復帰も、そのことを考えるヒントになります。
トキは江戸時代までは日本各地に分布していたと考えられていますが、その後急激に減少し、1981年には佐渡に残った国内最後の5羽が捕獲され、日本の野生下から姿を消しました。その後、中国から贈られたトキなどによる飼育下繁殖が進み、2008年から佐渡で野生復帰のための放鳥が始まりました。現在では野外で生まれた個体も増えています。


これは、「人が関わったら自然ではなくなる」という単純な話ではないことを教えてくれます。人間の活動によって失われた自然を、人間の手によって回復させる。それもまた、これからの時代の「自然との関わり方」の一つではないでしょうか。
ASOBIOが目指しているのは、誰にも触れられない「完璧な自然」を園庭につくることではありません。また、専門家だけが管理できるような、特別な自然環境をつくることでもありません。園庭の片隅に、少し草を残してみる。地域の木を一本植えてみる。花を咲かせて、どんな虫がやって来るのか子どもと観察してみる。落ち葉を掃除しすぎず、その下にどんな生き物が暮らしているのか探してみる。








そこからASOBIOは始まります。
そして自然環境は、完成した瞬間がゴールではありません。草が伸び、虫が来て、鳥が来る。子どもが遊び、先生が手を入れる。季節によって景色が変わり、ときには思ってもみなかった植物が生えてくる。ASOBIOが園庭づくりで大切にしている「未完成の完成」とは、そんな変化を受け入れながら、園庭を育て続けていく考え方でもあります。

環境省が進める30by30でも、国立公園のような大きな自然だけでなく、私たちの暮らしの近くにある自然を守り、育てていくことが重視されています。自然は、遠くの山の中だけにあるものではありません。園庭の草一本にも、小さな虫にも、土にも、水にも、そしてそれらに夢中になっている子どもの姿の中にも、自然とのつながりがあります。だからASOBIOでは、自然を「人間が入ってはいけない場所」としてだけ捉えません。
人も自然の一員として、関わり、遊び、ときには手を加えながら、ほかの生命と一緒に環境を育てていく。
それが、ASOBIOが考える「自然」です。園庭に小さな自然が生まれれば、そこに子どもが集まります。先生が集まり、保護者が足を止め、地域の人との会話が生まれるかもしれません。そして、その小さな自然との出会いが、子どもたちにとって、これから自然とどう付き合っていくのかを考える最初の一歩になります。まずは園庭の1㎡から。
子どもと一緒に育っていく「ASOBIO」を始めてみませんか。
